導入施設のご紹介:東京労災病院

羽田空港に近く訪日外国人の患者にも対応

――なぜ医療×「やさしい日本語」の研修を行おうと思われたのでしょうか。

杉山 当院は、羽田空港に一番近い総合病院です。外国からの旅行客を診療する機会が多く、また近年は、地域で生活されている外国人の患者さんも増えています。これまで翻訳機を導入して診療に役立ててきましたが、やはりコミュニケーションを取る難しさは各部署で感じていたと思います。そうした職員たちにとって、医療×「やさしい日本語」の研修は大変有益な情報が得られると考え、実施しました。

――研修会にはどのような方が参加されたのですか。

杉山 医師、看護師、事務などほぼすべての職種から、現場に近い安部さんや玉生さんのような若手・中堅職員を中心に、約30名が参加しました。学んだことをすぐにロールプレイで試し、フィードバックをいただける形が非常に効果的で、職員もとても熱心に、楽しみながら受講しているのを感じました。

――安部さんと玉生さんは、業務のどのような場面で外国人と接していますか。また、その時にコミュニケーションの難しさを感じたことはありますか。

玉生 地域医療連携室で外来診療の予約受付を行っているため、外国人の患者さんに対応することは少なくありません。私自身の経験でも、「全く日本語が分からない」という方はあまりいらっしゃらず、平易な日本語であれば伝わる方が多いと感じていて、これまでは自分なりに工夫した日本語に身振り手振りを交えてコミュニケーションを取っていたのですが、やはり「きちんと伝わっているのかな」という不安は常にありました。

安部 私は総務課なので、看護助手として働く外国人のスタッフと関わる機会があります。みなさんある程度の日本語は理解できるのですが、時折、私の話への反応が乏しいな、と感じることがあり、その場しのぎのコミュニケーションになっているのではないかという不安は私も持っていました。

「やさしい日本語」の視点で業務を見直し

――医療×「やさしい日本語」に触れて、病院やご自身の行動にどのような変化がありましたか。

玉生 「やさしい日本語」を使うようになり、これまでよりスムーズに外国人の方とコミュニケーションができている実感があります。また、丁寧さが必要な場面では丁寧に、分かりやすさが必要な時には簡単な言葉で、というように、場面に応じてどの言葉を使うのが適切なのかを常に考えながら患者さんと話すようになりました。

安部 私は、外来語や熟語を伝わりやすい表現に置き換えることを心掛けるようになりました。たとえば、勤務に関する会話でよく“シフト”という言葉を使っていたのですが、今は「次は何日に働きますか?」といった表現に変えています。研修後には、病院のHPが外国人の方には分かりにくいのではないか、という気付きがあり、今まで以上に問題意識を持つようになりました。「やさしい日本語」を知ることが、従来からの業務を見直すきっかけになったように思います。

玉生 私も、院内の掲示が分かりやすいものになっているかに目を向けるようになりました。

杉山 「やさしい日本語」の研修をきっかけに、職員が自主的に一部の掲示物に「やさしい日本語」とひらがなを使った案内を加えてくれました。さらに、病院全体で掲示物の見直しを検討しているところです。今、安部さんと玉生さんの話を聞き、「やさしい日本語」の導入が職員一人一人の意識改革に繋がっているのを感じました。院長として大変うれしいですね。

有用性に“目から鱗”。どの病院にも必要な知識

――医療×「やさしい日本語」に関心をお持ちの医療関係者のみなさんへ、メッセージをお願いします。

杉山 私自身も研修で初めて「やさしい日本語」に触れましたが、その有用性には、まさに目から鱗が落ちるような思いがしました。この概念は、どの病院でも知っておくべきものだと感じています。外国人患者とのコミュニケーションという課題に対して、組織だった対応や教育まではできていなかった、という病院は少なくないのではないでしょうか。特に、会話のコミュニケーションは、病院スタッフ個人の工夫や努力頼みになっているところもあると思います。どうぞ組織として「やさしい日本語」を取り入れ、どんな方でも受診しやすい病院づくりに役立てていただきたいと思います。

玉生 私と同じように受付業務をされている方の多くが、頑張って英語を使って伝えようとしていらっしゃると思いますが、「やさしい日本語」の方が日本で暮らす外国人の方には分かりやすく、私たち医療者側も、英語より楽に学べて使いやすいというメリットがあります。「やさしい日本語」は、患者さんと私たち、お互いの役に立つコミュニケーション方法だということは、みなさんにお伝えしたいですね。

安部 医療職や受付スタッフだけでなく、私のような総務の担当者にも、ぜひ「やさしい日本語」を知ってほしいです。総務は、直接患者さんと接する機会こそ少ないのですが、病院で働くすべての人に働きかけられる立場にあります。だからこそ「やさしい日本語」の重要性を理解し、病院内に広く意義を伝えていってほしいと思います。

独立行政法人労働者健康安全機構 東京労災病院
写真労災医療、勤労者医療はもとより、東京都からは、地域医療支援病院及び災害拠点病院に指定されており、地域の医療において中核的な役割を果たしています。また、2次救急医療機関として、東京都独自の救急医療体制である「東京ルール」にも参加し、積極的に地域の救急医療に寄与しています。

【住所】〒143-0013 東京都大田区大森南4-13-21
【TEL】03-3742-7301
【Email】info@tokyoh.johas.go.jp
【Web】https://tokyoh.johas.go.jp/
【病院長】杉山 政則
【診療科】内科、消化器内科、腎臓代謝内科、呼吸器内科、糖尿病・内分泌内科、総合診療科、脳神経内科、循環器科、精神科、小児科、外科、呼吸器外科、乳腺外科、整形外科、形成外科、脳神経外科、皮膚科、泌尿器科、産婦人科、眼科、耳鼻咽喉科、リハビリテーション科、脳神経移植科、放射線診断科、放射線治療科、麻酔科、救急科、病理診断科