導入施設のご紹介:昭和大学



将来役立つ学びを学生のうちに

――医療×「やさしい日本語」の活動をお知りになったきっかけを教えてください。

橋本 数年前、日本医学教育学会の学会誌に掲載されていた、順天堂大学の武田裕子先生の論文を読んで知りました。大学の国際交流センターに所属している立場から、外国人患者に対するとても良い取り組みをされていると興味を持ったので、2021年の日本医学教育学会では「やさしい日本語」のワークショップにも参加しました。


――昭和大学では、医療×「やさしい日本語」を医学部の授業に取り入れられたそうですが、
どのような経緯で実現したのでしょうか。

橋本 最初の取り組みとして、学内で2022年5月、医療現場におけるやさしい日本語の講演会を開きました。この時は、大学の教職員と8つの附属病院に勤務する医師、歯科医師、薬剤師、看護師など現場で働くスタッフが対象だったのですが、高齢者・小児や障害のある方とのコミュニケーションに役立つことから、ぜひ学生の教育にも取り入れたいという声が上がり、医学部のいつも一緒に活動している国際化・英語教育推進委員会で委員長を務めていらっしゃる松山先生にご相談しました。

松山 私が「やさしい日本語」に触れたのは、2022年の学内講演会に参加した時が初めてでした。講演をうかがっている間は、「それほど難しくなさそうだな」と思っていたのですが、ロールプレイでやってみると、思った以上に言いたいことが伝えられず、これは簡単にはいかないなと実感しました。だからこそ、時間がある学生のうちに「やさしい日本語」に触れ、知識を身に付けておくことが将来役立つと考え、私が担当する医学部4年生の授業に取り入れることになりました。

トライ&エラーで楽しく学ぶ姿が印象的

――実際にはどのように講義を行ったのですか。また、学生の反応はいかがでしたか。

松山 今回は、英語の医学用語やグローバリゼーションについて学ぶ「医学英語Ⅳ-A」の授業の中で、3コマ分を使って講義を行いました。医療×「やさしい日本語」研究会の教材に基づいて座学とロールプレイに取り組んでもらいましたが、特にロールプレイでは、学生が積極的に外国人模擬患者さんに話しかけ、トライ&エラーで学んでいる姿が印象に残っています。苦戦するところもあったと思いますが、みんなとても楽しそうでした。

橋本 本当にそうでしたね。講義後には学生から「体や病気のことだけでなく、相手の生活背景について知ることで、コミュニケーションが取りやすくなることに気付いた」という発表もあり、外国人に限らず、多様な患者さんと接する時に役立つ学びも得られたようです。とても良い取り組みになったと感じました。

松山 本学の医学部は2020年度、臨床での学びを重視した新カリキュラムを導入し、入学直後の1年次に医療面接の実習、2年次からは週に一度の病院実習を設けています。今回講義を受けた4年生は、新カリキュラムの1期生に当たり、すでに臨床の現場をある程度経験している学年です。患者さんとどのような会話が必要になるかを知っている学生たちだったので、比較的取り組みやすかったのでしょうね。

――今後、大学としてどのように医療×「やさしい日本語」を生かしていきたいですか。

松山 医学部では、来年度以降も講義を継続できればと考えています。また、他学部でも授業に取り入れられるといいのではないかと思いますが、そのためには、学内に「やさしい日本語」の授業を担当できる教員をどう増やすかなど、課題もありますね。

橋本 先生だけでなく、ロールプレイに協力していただける外国人模擬患者さんも増やしていく必要も感じています。医学部のほかの先生からも、この講義は続けた方がいいという期待の声をいただいていますので、今後も続けていければと思っています。

百聞は一見にしかず。一度体験してほしい

――医療×「やさしい日本語」に関心を持つ大学や医療関係者へメッセージをお願いします。

松山 ほとんどの日本人は、外国人と会ったらとりあえず英語を使って話そうという感覚が刷り込まれているように思います。しかし、医療×「やさしい日本語」を知り、実際には英語を話さない外国人もたくさんいて、日本語を工夫してコミュニケーションを取ることはできるということを、私自身も再認識しました。おそらく講義を受けた本学の学生も、私と同じように感じてくれたと思います。私たちも試行錯誤しているところではありますが、医療×「やさしい日本語」の講義は、非常に意義のある取り組みでした。ぜひ一度取り入れてみて、その良さをみなさんにも感じていただければと思います。

橋本 今後、日本で暮らす外国人が増えることが予測される中、外国人の患者さんとのコミュニケーションの難しさは、どの病院、どのクリニックでも、いずれ課題になると思います。医療×「やさしい日本語」は、一度でも触れておくと、コミュニケーションのヒントをたくさん得ることができます。私自身、ロールプレイに参加して、普段通りの表現ではいかに伝わらないかを痛感しましたし、現物を見せる、難しい言葉は分解して言い換える、といったコツを実践から学ぶことができました。百聞は一見にしかずです。医療機関のスタッフのみなさんにも、まずは一度、研修会などで経験していただきたいですね。

橋本 みゆき先生
昭和大学 医学部 国際交流センター 教授 (副センター長)
全国医学部国際交流協議会理事
松山 高明先生
昭和大学 医学部 法医学講座主任教授
心筋生検研究会学術企画委員幹事
日本組織細胞化学会評議員
日本病理学会学術評議員

【参考】
◎昭和大学「医学英語Ⅳ-A」の電子シラバス

◎昭和大学医学部新カリキュラムパンフレット